ふと見ると、担当の女性医師の目には大粒の涙が溜まっていましたが、目を見開いて何とかこぼさずに耐えているように見えました。
「退院時期はお母さんにお任せします。お母さんがゆうちゃんを迎えに来たくなったら、退院にしましょう。1カ月先でも2カ月先でも良いよ。お母さんがひとりで抱え込む必要はないんだよ?」
普段は誰に対しても丁寧な言葉を使うター先生が普通に話してくれたことで、私たちにしっかりと寄り添ってくれているのだと伝わってきました。
「双子ちゃんは通常は一緒に退院なのですが、希望があれば、ぴぴちゃんだけ先に連れて帰ることも可能です。それもお母さんの好きなようにしましょう」
そして、夫に向かってこう言いました。
「病院の都合を考える必要はありません。お母さんの気持ちを第一に一緒に考えていきましょう」
面談室を出てからほぼ会話をせずに帰宅し、そのまま夫の部屋でパソコンを立ち上げて「脳室周囲白質軟化症」と検索していると、遠くで花火の音が聞こえました。
面談の時間まで、何もかもがうれしかった日。
私と夫の人生が大きく変わった日。
子どもたちはその翌週、二人揃って退院の日を迎えました。
〇江利川ちひろ/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ
※AERAオンライン限定記事
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