「初戦は余計な力が入りすぎてしまった……」と本来の力を発揮できずミスが続き、プレーの精度を欠いた村上。しかし、2戦目以降は気持ちを立て直し、『女王』の心臓が復活。正常に脈を打ち始めた。
気持ちの立て直し。それは村上にとって、さらに強いチームを形成していくためのテーマだった。シーズンイン前に村上は語っていた。
「チームとして強くなっていくためには、コーチやパートナーの意見を受け入れて、それを行動で表すことが必要なことだと思って取り組んできた。美樹ちゃんがなんでそういう言葉を発するのか、わからないときもあった。それはやっぱり勝ちたいからだし、チームを良くしていきたい気持ちが前提にあるから。美樹ちゃんの言葉や行動は、ワールドツアーでトップ選手と戦っている時こそ、相手に対しての判断や気迫はすごいと思う。今もプレーはついていくのは必死だけど、試合中の発言や必要なことは理解できるようになってきた」
石井の言葉を受け入れて実行すること。それがワールドツアーでも最小と言われる身長165cmの村上が世界で勝つための唯一の方法だった。勝利のために必死で変わろうとしているパートナーを石井自身も理解し、石井なりのやり方で村上の心を支えている。
「シンさん(村上の愛称)は考え過ぎると動きが止まってしまうので、決勝前夜は『自由に好きなようにやっていいよ』と伝えた。試合中は気持ちが弱くなるとプレーも決まらなくなるので『自分でなんとかして!』ってカツを入れる。そうすると最終日みたいに気持ちも上がってきて、シンさんはもっといいプレーができると思っている」(石井)
石井の信頼の厚い言葉の後、村上も続けた。
「美樹ちゃんがガッとカツを入れてきたときに、私は一瞬そこで落ち着つかないといけない(笑)。冷静になってから言葉の意図を受け入れて実行する。そうすることで美樹ちゃんのプレーもよくなっていくとわかっているから。私の気持ち次第でチームはもっと強くなれると思っている」