菅首相は東京五輪・パラリンピックについて「安全安心の大会の実現は可能」の一点張りだ。だが、与党内から頑なな菅氏を突き放すような意見も出始めた。AERA 2021年5月31日号から。
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それにしても、各社の世論調査で、いずれも7~8割が「中止、もしくは再延期」と回答した東京五輪・パラリンピックだが、菅政権の中枢は「開催一択」しかない。4月の段階で「緊急事態宣言と五輪は関係ない」と発言した国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長だったが、5月に予定された来日は延期となった。
5月21日現在、東京、大阪をはじめ、北海道、岡山、広島などを加えた9都道府県には、3回目の「緊急事態宣言」が出ているが、さらに23日には沖縄がこれに加わることになった。また、「まん延防止等重点措置」は千葉、神奈川など10県に発令中だ。五輪開会式は7月23日。あと63日しかない。
あるキャリア官僚の一人は、この間の官邸の雰囲気は「まるでお通夜のように静まりかえっていた」と明かした上で、こう驚きを隠さない。
「仮に中止、延期は想定していないにしても、そうなった場合のシミュレーションは内々に作っておくもの。今回は議論になったこともないというのです。つまり、同じ理屈で、開催期間中に例えば選手村でクラスターが勃発して競技が中断した場合、政府がどう対応するかなどのシミュレーションもできていない。それは、日本オリンピック委員会(JOC)と東京都が決めることと高をくくり、政府としては何も想定していないというのです」
■会期末解散の体力なし
一事が万事、菅政権の対応はそうだ。「仮定の質問には答えられない」のではなく、「仮定そのものがないのではないか」とすら疑ってしまう。そうなると5月末に解除を想定している東京の緊急事態宣言をどうするのか。感染拡大が全国に広がりを見せるなか、政府は延長に追い込まれそうだ。現段階で菅政権の切り札はワクチンだ。「7月末までに高齢者のワクチン接種を終える」がお題目のように唱え続けられている。無論、早く接種を終えるのに越したことはないが、他の世代へのワクチン接種は始まってもいない。五輪は7月23日に開幕するので、実質的に菅政権では五輪開催とワクチン接種は何も関連性なく進んでいることになる。