運んで来た少女の指にはマニキュアが。私は驚いた。こんな戦時下でなぜ装うのか。明日死ぬかもわからないのに。私なら何もする気が起きぬのではないか。
そのことを直接言葉にして聞いた。
黒いパッチリした瞳で私をみつめ彼女は言った。
「いつ死ぬかわからないから、今楽しんでいるのです。せめてマニキュアをして美しくいたい!」
感動した。彼女は明日をもわからぬ命だからこそ、今をしっかりと生きている。その言葉と確信に満ちた表情を忘れない。
今イスラエルの砲火にさらされている人々にも生活があり大切な日常がある。
国連に加盟する世界の国々も手をこまねき、政権交代したアメリカもイスラエル寄りを改めない。いったいいつまでこうした愚行が続けられるのか。今、話されている停戦もいつまで続くかわからない。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『明日死んでもいいための44のレッスン』ほか多数
※週刊朝日 2021年6月4日号