箔が押されていなかったのは40万枚のうちの10枚だった。「たった10枚かもしれませんが、それを買った人がどう感じたかと思うと、自分が情けなかった。いろいろな仕事を任されるようになっていい気になっていたんだと思います」。この失敗を機に初心に帰り、品質について徹底的に考えるようになった。

 入社後1年で箔押しの仕事を希望。定年を間近にひかえた大先輩のもとで見よう見まねで仕事を覚えたが、できたものを見せるといつもやり直しを命じられた。うまくできていないことは、自分自身が一番よくわかっていた。

 半年ほどたった頃、「仕事、向いていないかも」と祖父に打ち明けた。普段はあれこれ言わない祖父が「3年はやってみたらどうだ」と一言。この言葉を信じて続けた今、箔押しは天職になった。

「自分が手がけた商品が店頭に並び、その商品を買っている人を見かける時が何よりうれしい瞬間です」

(ライター・浴野朝香)

AERA 2023年2月6日号

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