エムガルティの治療方法は、月1回の注射による投与だ。初回治療のみ2本の注射が必要で、2回目以降は毎月1本だ。頭痛の発症が抑えられ、副作用も注射時の痛みや腫れ以外には特にないという。

 若林さんはエムガルティを注射してから、片頭痛の症状が出そうな予兆が起きてもしばらくするとなくなっており、18日間頭痛薬を飲まずに過ごせていると、5月15日放送の同ラジオ番組で語っている。

「エムガルティは大いに期待できる薬です。私が注目するのは、頭痛の発症が半減した人たちです。頭痛で何も手につかないような状態が半減ということは、片頭痛に苦しむ患者さんにとっては大きな意味があります。日常生活にもセルフケアにも前向きになることができると思います」(坂井医師)

 現在、エムガルティでの治療を受けられるのは、医療機関で片頭痛と診断され、過去3カ月平均で1カ月のうち4日以上片頭痛が発症している、従来の薬の効果が不十分である……などの条件に該当する人になる。

 そのため、まずは片頭痛であることを診断する必要がある。しかし、痛みは数値を測ってわかるものではないため、自分の頭痛を正しく医師に伝える必要がある。

 坂井医師は、患者が自分の症状を医師に伝える「頭痛ダイアリー」を日常的に書くことを勧めている。頭痛ダイアリーとは、頭痛が起きた時の状況を事細かに記録するもので、日時や痛みの程度、天候、服用した薬とその効果、発作による日常生活への支障などを書き出していく。

「エムガルティは、片頭痛の原因になる物質だけを狙い撃ちし、痛みを抑える仕組みになっています。頭痛全般に効くわけではなく、片頭痛にしか効果がありません。患者さんの『頭痛ダイアリー』をもとに症状を精査したうえで、適応を定めています」(同)

 唯一のデメリットと言えば、薬価が高いことだ。保険適用の3割負担で1本当たり1万3550円だ。

 現在、エムガルティと同様の効果が期待できる薬が、ほかにも3種類開発進行中だというから大いに期待したい。

 若林さんは頭痛がつらい時に、相方の春日俊彰さんから「頭痛は気の持ちようですよね」と言われ、かなり傷ついたことをラジオで語っていた。片頭痛を抱える人に対しては、家族や職場など、周囲の人たちの理解も重要だと坂井医師は話す。

「患者さん本人はもちろん、周囲の人々も“たかが頭痛”という考え方とはさよならしてください。そして、本人は専門医のもとできちんと診察してもらい、適切な治療を受けてください。そうすれば、必ず日常生活のQOL(生活の質)は格段に良くなります。少しでも早く受診して人生を損しないようにしてください」

(文・伊波達也)

【取材協力】
埼玉精神神経センター・埼玉国際頭痛センター長 坂井文彦医師

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