ジャーナリストの田原総一朗さんは、マスコミに「だめ首相」と決めつけられた森喜朗元首相を高く評価する。
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私がある番組で、「政治生命を懸けてこういうことをやりたいとはっきりしていたのは、田中角栄氏以後の首相では中曽根康弘、小泉純一郎、安倍晋三の3氏だ」と述べたことに対し、名前を挙げなかった森喜朗氏が大変怒っていると聞かされた。
私は森元首相のことは大変高く評価している。
まず、森氏は衆院選に初めて出馬したとき、無所属なのにトップ当選している。大変面倒見がよくて、地元の有権者たちの期待が高かったのである。
そして、小渕恵三首相が急病で倒れた後、幹事長であった森氏が次の首相に選ばれた。もちろん正当に選ばれたのだが、マスコミは一斉に「密室談合」だと書き立てた。森氏はろくに反論する機会も与えられなかった。
マスコミによって、初めから「だめ首相」だと決めつけられてしまったのだ。そして、森氏の「神の国」発言など、その発言をわざわざ歪曲(わいきょく)して捉えて非難した。
実は私は、番組内で、マスコミが森氏の発言を歪曲して報じていると指摘したのだが、力が及ばなかった。
そして、森氏の支持率が決定的に下落したのが、えひめ丸事故であった。2001年、愛媛県立宇和島水産高校の実習船「えひめ丸」がハワイ沖で米国の潜水艦とぶつかり、沈没した事故だ。5人の乗組員や教員、4人の高校生が亡くなった。
このとき多くのマスコミが、森氏はこの日ゴルフをしていて、事故の発生を知ったにもかかわらずゴルフを続けていた、と報じた。これはけしからん、というわけだ。これが森氏にとって致命傷になったのである。
だが、事実は少し違うのである。
この日、森氏はプライベートでゴルフをしており、秘書官たち全員に休暇を取らせていた。だから、えひめ丸事故の詳細が森氏に伝わらなかったのである。
そして、森氏は事故を知るとただちに東京に戻った。ただし、首相官邸には直行せずに服を着替えるために自宅に立ち寄った。これもまた批判された。