さとうみゆきさん(左)と大野更紗さん(右) (撮影/慎芝賢)
さとうみゆきさん(左)と大野更紗さん(右) (撮影/慎芝賢)
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 闘病記「困ってるひと」でベストセラー作家となった大野更紗さん(28)。同じくユーモラスな闘病コミック「なんびょうにっき」を描いたさとうみゆきさん(46)。死にかけながらも乗り超えた闘病生活の中で気づいた、日本医療の問題点をこう話す。

*  *  *

さとう:大野さんの本を読んだら、私の病状なんてまだ恵まれてるほうだと思うんです。大野さんは検査に1年間、その後の入院治療に9カ月。まさに壮絶な「闘病記」でした。

大野:いやいや、そんなことはないですよ。最近、私は難病患者さんにインタビューすることが多いんですが、皆さん、「私は恵まれているほうです」って言うんです。100人中99人は言う(笑い)。この思考って、すごく日本的だなーって思うんです。皆さん大変な思いをしているのに、「私は全然いい」「私はまだマシ」だと。患者さんに言わせてしまう日本のヘルスケア文化って再考する必要があるなと最近思いますね。それに、さとうさんの漫画を読んで気がついたのは、「こういう制度がありますよ」とか、「こういう支援が使えますよ」とか、そういった助言をしてくれる人が一人も登場しないことです。

さとう:たしかに私の場合、入院中はインターネットのウィキペディアで自分の病名を調べるくらいしかできませんでした。

大野:それが私にとっては結構ショックでした。「あぁ、やっぱりこれが日本の病院の現実なんだなぁ」って。MSW(メディカル・ソーシャル・ワーカー)が病院に設置されるようになったとはいえ、患者が自分でMSW室に行かなければ何も教えてくれないのが現状じゃないですか。寝たきりでいろんな点滴のチューブが体につながっていて、危篤状態のときに「すいません。私は今後どうやって生きていけばいいのでしょうか」と聞きに行かなければ、誰も何も教えてくれない。

さとう:でも、私の主治医の先生はすごくよくしてくれたんですよ。

大野:それも、患者さん皆さんがおっしゃる言葉の一つです。たまたまいい人にめぐりあえただけであって、偶然の積み重ねでしかないと思うんです。偶然のピースが一つでも欠けちゃったら、難病患者は死んでしまうかもしれない。建前としての制度はあっても、医療と社会の間に、患者が接続する隙が全然ないと思うんです。ほとんど本人の自助努力と工夫で生きるしかない。

週刊朝日 2013年6月28日号

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