指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第71回は、「レース感覚を磨く6月」。
【写真】男子200メートル平泳ぎで世界新をマークした北島康介選手
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今回は6月の強化について書きたいと思います。
それまでの体作りや泳ぎの見直し、泳力アップといった基礎的な練習から、どうやって競技会で力を発揮するか、という実戦に向けたトレーニングに切り替えていく時期です。過去の五輪の前は海外で複数の競技会に出場して、レースの感覚を磨いていきました。
4月の五輪代表選考会を終えて、それぞれの選手の課題が見えてきます。もう一段階レベルアップするために何が必要かを考えて、たとえば水中練習を減らしてウェートトレーニングを多めに入れて体作りに取り組んだり、冬場の練習が思うようにいかなかったときはしっかり泳ぎ込んだり、大型連休をはさんだ時期にそれぞれの課題を克服する練習に取り組みます。
大きくなったエンジンを調整して、持っている力を出し切れるようにしたい。そのために競技会でライバルたちと真剣勝負を重ね、泳ぎのペース配分、スタート、ターン、ゴールタッチなどの技術も含めて微修正を繰り返しながら、本番に向かっていくのです。
萩野公介が男子400メートル個人メドレーで金メダルを取った2016年リオ五輪前の6~7月は、フランスのカネ、スペインのバルセロナを転戦する欧州グランプリとフランスオープンに出ました。5月末のノルウェーの競技会も含めて、計4試合に出場しました。
ある年は6月のジャパンオープンに出場してから、スペインの高地合宿に入って、フランスオープンに遠征したこともあります。試合の緊張感の中で強豪と競い合うことで、目指してきた泳ぎやレース展開を自分のものにしていくことは、自信を持って本番に挑むために大切なプロセスです。
五輪や世界選手権は予選からレベルの高い争いになります。それを想定して予選から力を出す意識づけが必要になりますが、強豪同士がしのぎを削る欧州選手権とは違い、パンパシフィック選手権やアジア大会では予選で力を温存したまま決勝に進む選手が多い。