姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 自民党が半導体戦略推進議員連盟を立ち上げ、会合が開かれました。会長は甘利明氏、最高顧問に安倍晋三氏、麻生太郎氏です。ここに二階俊博幹事長が含まれないことから、二階vs.「3A」(甘利、安倍、麻生の3氏)という対立の図式が浮き彫りになりました。

 甘利氏は中国とのサプライチェーンのデカップリングの司令塔になろうとしています。そこに安倍氏と麻生氏がはせ参じたというのは、党内の権力争いに留まらず、米バイデン政権の対中戦略を党の中でより強く推し進めていくという意思表示でもあるのでしょう。安倍氏の出身派閥・細田派は、かつての台湾ロビイストに近い存在です。片や二階氏は中国に太いパイプを持ちます。「二階外し」は、米国の対中国戦略と無縁とは言えないでしょう。

 一方で二階氏は、5月24日の記者会見で参院選広島選挙区を巡る買収事件の責任は「総裁(安倍晋三前首相)と幹事長(二階氏)にある」と明言しました。資金の流れは幹事長が最終的に決裁するにしても、大きなお金が動いたのは明らかに総裁マターだったというわけです。この一連の動きは検察に対するアピールでもあると言われているようです。

 国内的には自民党内部の権力闘争ですが、米中、台湾の位置づけを考えていくと半導体という戦略的なアイテムをめぐる重要な経済安保に関わる問題が見えてきます。今後の政局は、現政権の支持率やワクチンとオリンピックをめぐる問題とも連動していくと思います。二階氏との連携が取り沙汰される小池百合子東京都知事の動向次第では、連立政権が組み直され、パンドラの箱が開く可能性もあります。同時にそれは、大局的な東アジアをめぐる米中との対立や、その焦点になりつつある台湾への日本の関与の強弱とも連動しているということを見ていかないといけません。これを単なるコップの中の嵐の小さな政局、それだけで見るのはあまりにも矮小化(わいしょうか)しています。

 たとえどんなに矮小な権力闘争でも、時には大きな内外の変化に対する路線闘争を含む場合があります。そういう見方をしていかないと本当の今の状況はわからないでしょう。

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

AERA 2021年6月14日号