一方、豪州(シドニー)、ギリシャ(アテネ)、中国(北京)など6回は下回り、星取表は「3勝6敗」だった。

 同様に、データのなかったロサンゼルス、アトランタと韓国(ソウル)の3回分を除く6回分について、開催翌年以降の財政への影響もみてみた。すると、借金の大きさを示す政府債務残高の対GDP比率は、開催翌年に豪州以外の5カ国で悪化、つまり「1勝5敗」と、より分が悪くなる。開催10年後には、6カ国すべてで開催年より借金が増え「全敗」だ。

 この数字をみる限りは、五輪は必ずしも、その国の経済をよくするとは言えないのではないか。財政に詳しい政策研究大学院大の井堀利宏・特別教授はこう読み解く。

「短期的には、中止した場合の放映権料の賠償やスポンサー企業への違約金の扱いに大きく左右され、中止したほうが、リスクは高いように思えます。しかし、財政の影響は長期的に考える必要がある。国はこれまでコロナ対策のため昨年度に3度の補正予算を組み、国債を112兆円余り増発しました。感染が収まらなければ今後も対策費用は必要になるし、さらに膨らむ可能性もある。景気が回復しなければ税収も減ります。長期的には、大会を中止して感染が収束に向かうのがベスト」

 スポーツイベントの経済効果に詳しい関西大の宮本勝浩名誉教授は言う。

「IOCは、放映権料などの収入が大きいので、どうしても開催したいはず。一方、無観客など規模を縮小して生じる損失をこうむるのは、日本側です。そうした構図がある中で、IOCにひきずられるように開催してしまっていいのかという疑問もあります」

 十分な経済効果が期待できないばかりか、暮らしや経済に痛手や禍根を残すようなイベントになっては元も子もない。(本誌・池田正史、矢崎慶一)

週刊朝日  2021年6月18日号

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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