「五輪で人が東京に集まるので、本来であれば喜ばしいはずなんですが、今回は中止にしてもらったほうがいいです」
そう話すのは、東京・六本木にあるキャバクラの店長。昨年から繰り返し出されてきた緊急事態宣言中は、系列店も含め、すべての店を閉めてきたが、従業員らの「もう限界」との声などもあり、開けることになった。
「中止にしてもらって、ワクチンの接種が早く進んで、昼間の仕事の方々が普通に夜の街に飲みに出られるような状況になってくれないと私たちの世界は厳しいので。五輪で人が増えてまた緊急事態宣言が出たら、もう目も当てられませんから」
東京・赤羽の居酒屋「やきとん大魔王」の店主、篠原裕明さんも「五輪が開催されて新型コロナウイルスの感染がかえって広がることにならないか心配です」と話す。緊急事態宣言下では東京都の要請を守り、酒を出さずに営業を続けているが、当然、客足は鈍い。周辺では、酒を出してしのごうとしている店もあり、国などの対応にも釈然としない思いがある。
「居酒屋にまでアルコール類の提供を禁止しているのに、五輪の選手村には酒の持ち込みはOKとか政府の対応は矛盾だらけ。大会期間中の感染対策はやると言われても信用できない」
政府はこれまで、「東日本大震災からの復興」「コロナに打ち勝った証し」などと旗印を変えながら準備を進めてきた。大義名分は変わっても、底流には、開催によって期待される経済効果が一貫してあったはずだ。
ところが、その効果は息切れしつつある。インフラ整備は一巡し、入国制限でインバウンド需要も期待できない。今や経済効果どころか、ダメージのほうが強く意識され始めている。
野村総合研究所が最近、こんな試算をした。
五輪で国内観客を制限なく受け入れる場合の経済効果は、1兆8108億円。無観客の場合は、1兆6640億円。つまり、中止にした場合、それだけの経済効果が失われるということだ。
しかし同時に、これまで発出された緊急事態宣言の経済損失も推計したところ、1回目の昨年4~5月の損失は6兆4千億円、2回目の今年1~3月は6兆3千億円、さらに3回目の現在、6月20日までで3兆1千億円に上る結果となった。言えることは、緊急事態宣言による経済損失は、五輪中止による損失を大きく上回る。