電動車椅子に乗った学生が監督した「へんしんっ!」というドキュメンタリー映画が評判を呼んでいる(19日公開)。「表現活動の可能性を探ろう」と全盲の俳優、聾(ろう)者のパフォーマーらにインタビューしていく。異色なのは監督自身が“被写体”の一人となり、ダンスの舞台にも出演する展開だ。
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石田智哉監督の「へんしんっ!」は昨年、自主映画のコンペティション、第42回ぴあフィルムフェスティバルPFFアワード2020で、グランプリに選ばれた。
審査員で「日日是好日」「星の子」を撮った大森立嗣監督は、受賞の選評をこう述べている。
「彼(石田監督)が画面の中に出てきたり、踊り出したりするのに最初はびっくりして、問われているのは観客なんじゃないかと思いました。僕は彼が楽しんでいる姿が本当に好きでした」
石田監督は立教大学大学院に通う学生で、「へんしんっ!」は現代心理学部映像身体学科の卒業制作としてつくられた。
試写会で記者が身を乗り出してスクリーンを見だしたのは、石田監督が砂連尾理(じゃれおおさむ)さん(ダンス振付家・立教大学特任教授)にインタビューしていくなかで、制作中の舞台(カフカの『変身』がモチーフ)に誘われ、出演を決めていく、何かが変わろうとする場面だ。
車椅子から降ろされた石田さんが寝そべりながらも出演者に交じっていく。不安と希望の混ざった石田さんの顔をカメラが捉える。どんなことが起きるのか、わくわくドキドキさせられる。
出演を誘いかけた砂連尾さんは、「ダンスというのは、ふだんの生活の中で教育され、社会化された身体の殻を剥ぎ取っていく。その人の素顔をあらわにしていくものだとぼくは思っている」という。10年ほど前から認知症の人や障がいがある人とのダンスに取り組んできた経験をもち、石田監督の取材を受けるうち「優等生に見える石田さんだけど、それだけではないだろう。ほかの一面を見たくなった」。