映画の中で、カメラを向けられた石田監督が「ぼくは暴君にはなりたくない」と語りだす場面がある。どういうことだろう?
石田監督に話を聞いてみた。「子供の頃から、ぼくが意見を述べると異論も出ずに決まっていく。これでいいのだろうかと思い続けてきた」という。当初、監督の悩みはスタッフに「指示」することだった。指示がないことに戸惑う録音の藤原里歩さん、撮影の本田恵さん。3人の関係に砂連尾さんは興味をもった。
「舞台なら演出家が決めることで作品が成り立つのが一般的なんですが、互いにどこまで踏み込んでいいのか躊躇(ちゅうちょ)しあっている3人を見ていて、この映画は従来のヒエラルキーをつくらないということを、新しいトライアルとしてもいいんじゃないのと言った。おせっかいだけど」と砂連尾さん。3人が胸の内を明かし、意見を交わし、考えをくみ取り合える関係が築きあげられたら「全員の映画」になるだろうと考えたという。
関係の変化が感じ取れる印象的な場面がある。あるインタビューの終了後、後ろ向きに電動車椅子を動かし狭い場所を移動する監督を、撮影の本田さんが前で誘導する。その様子を映すため、録音の藤原さんがカメラを回している。その後、機材ワゴンをゴロゴロと引いて先を行く藤原さんを監督が追い、再び本田さんが撮影する。なんでもないシーンだが、カメラの視線から制作を共有するチームならではの空気が漂うシーンだ。
別の場面では、最寄り駅から石田さんが電車に乗り込む「通学」の様子が紹介される。車内でスマホを操作する監督の顔を見つづけていると「障がい」のあることが頭から抜けかける。半面、大変なんだと思わせるのが、保健室で身体が固まらないようにストレッチを受ける場面だ。寝かされた状態だと自分で身体を動かすことができない現実を知らされる。シーンのつなぎにセンスのよさを感じるのだが、編集作業も石田監督が自宅でノートパソコンを操作してひとりで行っている。