TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。村上春樹さんと観た「安西水丸展」について。
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安西水丸さんのイラストが表紙の週刊朝日99周年号(今年2月12日号)は、僕のラジオ局でも話題になった。2014年に亡くなった水丸さんが村上春樹さんの連載『村上朝日堂画報』で描いた挿絵だ。懐かしい。ほのぼの。おおらか。発売日以降その号を買おうにもどこも売り切れだった。
「このイラストにある『カンガルー日和』の装丁はもともと佐々木マキさんが描いたもの。それを水丸さんは模写している」と説明してくれたのは村上春樹さん本人だ。
緊急事態宣言下、特別の許可を得て世田谷文学館の「安西水丸展」にご一緒した。
展示会のカタログに「ぼくと3人の作家」の章があり、春樹さんとの間柄を「互いのことを『兄弟のようだ』」という水丸さんの言葉が載っていた。ちなみに村上作品にたびたび登場する「ワタナベノボル」や「渡辺昇」は水丸さんの本名である。
「こっち、こっち」と春樹さんに呼ばれるたびに、とっておきのエピソードを知ることができた。
いかにも郊外の線路の風景。読みかけの本を傍らに、猫をお腹に乗せてレールに寝転び「線路に寝転んで日なたぼっこをして楽しんだ」と言う春樹さんに「そんなことをしてるとトマトケチャップになりますよ」と水丸さんが呼びかける絵は「国分寺に住んでいた頃(昭和49年か50年あたり)」だという。
「国鉄中央線と西武国分寺線の間に住んでいて、国鉄がストになるとここまで静かだったんだとレールの上で猫と遊んだことを週刊朝日に書いたら、こんな挿絵を描いてくれた」
『螢・納屋を焼く・その他の短編』の表紙ではイラストではなく「字」だけをお願いしたそうだ。「水丸さんの字が好きだったからね。でも水丸さんがずいぶん緊張して。結局、最初に書いたメモが題字になったみたい」と春樹さん。