作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、先日の父の日にラジオから流れてきた言葉について。
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父の日にラジオ(NHK)をつけたら、「今日は父の日だよ! 全国のパパ、いつもお疲れさまです!」と女性の声が聞こえてきた。舌足らずの幼い声、アイドルだという。だいぶ媚びてるな~と聴いていたら、今度は「なんでも買ってあげる!!」と男性のはしゃいだ声が聞こえてきた。その女性に夢中! という体の成人男性の声だ。するとその女性が「んもー!」みたいな感じで、「違う(意味の)パパになってくれる?」と笑うように言い、それに対し男性が「やぶさかではない」とふざけるように言ったとたん、ラジオからガハハハ! ゲラゲラ! ガハハハと男たちの笑い声が続いたのであった。
日曜日の夜である。初夏の夜風が心地よい優しい夜。週の始まりに心を整える柔らかい時間、クラシックでも聴くかとNHKラジオをつけたとたん、自宅で性差別テロにあったようなものである。私は激しく動揺し、できる限りの乱暴な動作でラジオを消した。
テレビを見なくなった、という人が周りで増えている。私もその一人で、大きな理由は「うるさい」というのと「性差別がつらい」から。芸人たちの人間関係がわからないと理解できない内輪の笑いや、性差別を笑うシーンにザッピング中にうっかり当たる確率がとても高いメディアになってしまったように感じている。好きなドラマはオンデマンドで見ればいいし、ニュースもネットと新聞でいい。最近は家にいるときにラジオをつけるようになった。
NHKの子ども科学電話相談はお気に入りだ。先日は特に傑作だった。小学6年生の女の子が「大きいカマキリに小さいカマキリが乗っていたのですが何なぜですか?」と質問してきたのだ。交尾について説明することに昆虫学者の男性が驚くほど慎重に答えていて、それが好ましかった。交尾の後もオスが動かないこの理由を、男性先生はこう答えたのだ。
「それはね、メスを他のオスに取られないようにキープ……あ、キープなんて言い方は失礼だよね……そう、しがみついているんだ……しがみつかれて……迷惑だよね、悔しいよね……」