■『花寿司の幸』3巻.第19話「カツオとマンボウ」

 村上茂雄氏による気仙沼を舞台にした寿司屋の漫画で、この巻は2007年に発売された。この回はカツオのように一直線にバリバリ仕事をする営業マンの上司が、マンボウのようにのんびり仕事をする部下に厳しく当たるも、マンボウ寿司と周りの人に諭されて部下のやり方を認めていく、という内容の回である。

 作中ではマンボウに関して、「夏の気仙沼ではマンボウの肉や卵巣を刺身にして酢味噌で食べる」、「暖かい日は海面で日向ぼっこ(寄生虫を海鳥に取ってもらうための行動)しているが、そこを漁師に銛で突かれる」、「飼育は難しく、泳ぎが下手で水槽の壁にぶつかって死ぬこともある」、「マンボウとカツオの生息域は似ていて、カツオ船にとってマンボウは大漁の兆候となる縁起のいい魚」、「マンボウの表面はザラザラしているが、傷付いたカツオはマンボウに体を擦り付けて傷を癒す」、「マンボウの体表の脂を胃潰瘍の特効薬に使う民間療法がある」、「とても弱い魚だが、魚の中で一番多い約3億個の卵を産み、成魚に育つ可能性は低いが、生き残れば大きく育つ」と書かれている。

 作者が気仙沼出身とあって、漁師しか知らないような知見が多く盛り込まれている。知見を修正するなら、日向ぼっこ行動は餌を食べに深海に行き冷えた体を温めるため、水槽の壁にぶつかってもすぐには死なない、胃潰瘍の特効薬は体表の脂ではなく肝臓、3億個の卵は卵巣に入っていた数だ。カツオの傷を癒す話は、上述した粘液の抗生物質のことだろう。

『ワイルドライフ』と『花寿司の幸』は、「死にやすい弱い魚」というマンボウのイメージがまだインターネット上で広がる前に描かれた貴重な作品で、もし現在で描かれていたら、また違った話になっていたと思う。

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