寿司といえばトロにコハダ、アジ、穴子。ウニにホタテも食べればもう大満足。でも、海のネタに偏っていませんか。陸のネタに目を向ければ、新たな味覚の海が広がっているんです。AERA2021年7月5日号の記事を紹介する。
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レーンの上を堂々と回るマグロやウニを横目に、狙いを定めて手を伸ばした。
「初手のコーン軍艦は外せません。甘めのネタから始めて、さっぱり系で締めるのがいい」
そう流儀を話すのは、作家の岸田奈美さん(29)。小学生のころに父親と訪れたくら寿司でコーン軍艦を食べて以来、その魅力にとりつかれた。
「でも、コーン軍艦を回らないお寿司(すし)屋さんで見たことがないんですよね」(岸田さん)
魚介ネタに比べれば、コーンやハンバーグは傍流だ。チェーンのメニューで「その他」に分類されることもある。お笑いコンビ「オズワルド」の伊藤俊介さんは昨年末のM-1グランプリで、いなりやかんぴょう巻きを「ザコ寿司」と言い放った。
「悔しいけど、ザコ寿司は笑ってしまいました。自分は子ども舌だからと謙遜したこともあります。本当は胸を張って好きだって言いたいし、寿司差別をなくしたいんです」(岸田さん)
同じ寿司なのに、海より深い隔たりがある。かくいう筆者も“差別”に直面した一人だ。6年前、筆者が注文した寿司を見た友人は驚いた顔でこう言った。
「芽ネギなんか食べるの?」
それ以来、芽ネギを頼む時は言い訳を挟むようになった。
■対スシローの切り札
寿司店で魚を食べない後ろめたさを払拭したい。そんな思いから、岸田さんはザコ寿司を「陸上寿司」と命名。今年のこどもの日に、SNSで「陸上寿司愛好会」(@rikujosushi)を立ち上げた。
コーンやアボカドを野菜系、ハンバーグや生ハムは肉系、煮卵やうずらは卵系、いなりなどを独立系と分類。逆に魚介系は「海中寿司」と定義した。1カ月で集まった愛好家は約千人。みんな水面下に潜っていたのだ。
「かつては子どもをターゲットにしたネタがほとんどだった陸上寿司ですが、3~4年前から各社こぞって大人向けメニューの開発に力を入れ始めました」
そう分析するのは、回転寿司評論家の米川伸生さん。冷凍や養殖の技術が上がり、魚介系の品質が向上した。それが、かえって「陸上寿司」の強化につながったという。なぜか。