資産形成を図りながら、万一の時の保障も充実──。そんな触れ込みの金融商品「変額保険」が注目を集めている。 老後の備えに一石二鳥かと思いきや、うまみがあるのは、どうやら売り手のようで。AERA 2021年7月5日号に掲載された記事から。
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首都圏在住の公務員男性(31)は今春、2カ月前に入ったばかりの変額保険を解約した。資産形成の「無料相談窓口」で会ったファイナンシャルプランナー(FP)の勧めで契約したが、自分で調べ直すと無駄が多いと気付いたのだ。
「いま思えば『いいカモだ』と狙い撃ちにされたのでしょう。高い勉強代でした」
男性が最初に窓口を訪れたのは昨年末。長男の誕生を機に「お金のことを真剣に考えよう」と思ったからだ。応対したFPは資産形成のシミュレーションや保険の仕組みを丁寧に教えてくれた。「話し上手で親切」という印象で、すぐに商品を勧められることもなかった。
相談を重ねるうち、男性はすっかりFPを信用するようになった。4回目の訪問で提案されたのが、変額保険だった。
「保障だけだとお金がもったいない。運用だけだと『万が一』が心配。将来のために資産運用をしながら保険も付く『一石二鳥』の商品があるんです」
変額保険とは、生命保険と投資信託がセットになったような金融商品。今の主流は「月払い」タイプ。毎月の保険料の一部を投資に回し、運用実績に応じて、満期で受け取るお金や解約時の返戻金が変わる。うまくいけば保険料を上回る保険金がもらえるが、元本割れもありうる。
■運用しだいで元本割れ
一般的な生命保険に比べてリスクが高いが、「長期・積み立て・分散」による「貯蓄から投資へ」という国のスローガンにも乗って、投資初心者への勧誘も盛んだ。多くは中堅生保が手がけており、主要6社が2020年度に獲得した契約は約890億円(年換算の保険料ベース)で、4年間でほぼ倍増した。本誌が実施したアンケートでは、回答者176人のうち延べ33人が入っていた(調査期間6月4~14日)。
さて、冒頭の男性が契約した変額保険とはどんなものだったのか。パンフレットには30歳男性が月2万円の保険料を60歳まで支払う例が示されていた。30年間の支払総額は720万円で、この間に死亡すると931万円受け取れる。肝心なのはここから。満期まで生きていれば、運用実績が3%だと931万円もらえるが、マイナス3%だと377万円に減る。0%でも577万円しかもらえない。支払総額との差(143万円)は保険のコストというわけだ。