政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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東京都議会議員選挙が終わりました。この原稿の締め切りは開票日前なので、結果はまだわかりません。しかし、目前に迫る五輪、一向に落ち着かないコロナ……。そんな最中の選挙ですから、到底盛り上がりは望めなかったのではないでしょうか。
今回の都議選で重要なのは、政党の勝ち負けだけで判断してはいけないことです。低投票率なら、組織票の強い自民党と共産党が伸びるのは過去のデータからわかっています。危機感のある公明党は都民ファーストとの政策協定を破棄し、自民党との連立という形で挑みました。自公が過半数を取れば、都政のねじれは解消します。共産党と立憲民主党の共闘の行方も注目でした。
都議選の投票率はかつて60%、多い時で70%を超えていました。前回の投票率が51.28%だったのは、かなり低いことがわかります。今回の投票率は、過去最低を記録した1997年の40.8%に迫るのではないかともいわれています。都議選であれ、5割を切った投票率で実質的にどこまでの正当性を持ち得るのか。これは大きな疑問です。
今回の都議選にはもう一つ、問題がありました。なぜ従来通りの手段しかなかったのかということです。選挙は昨年から予定されていたわけですから、投票所に行かなくても投票できるような手段を準備しておくべきでした。選挙管理委員会には大変な負担になるかもしれませんが、米国の大統領選ですら、郵便で投票を受け付けています。
今秋までに解散総選挙があります。その時コロナが収束していなかったら? 第5波が来ていたら? 大変な投票率の落ち込みが予想されるでしょう。重大な選択を迫られる選挙になる可能性があるにもかかわらず、低い投票率だったとしたら、それは言わずもがなでしょう。
選挙とは、有権者が唯一自らの意思を表示できる機会です。にもかかわらず、今の日本はそこから遠ざかっていっているように思えてなりません。選挙に無関心ということは、選挙自体の「敗北」という結果にならないとも限りません。今回の都議選の結果は、日本の議会制民主主義の衰弱を見極めるための格好の物差しになったのではないでしょうか。
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
※AERA 2021年7月12日号