この間、梶さんを支えたのは「卵を扱って40年」になる主席研究員の渡邊正記さん(61)だ。「ほぼたま」は「食卓で主役になれる味」と太鼓判を押す。当時役員として代替卵の開発を社内で提案した渡邊さんには、経営リスクの観点からの開発意図もあったという。
「鳥インフルエンザなど外的要因によって、鶏卵を常に安定調達できるとは限りません。そのため、卵を使えない状況になっても、代替原料で商品を提供できる技術を確立しておくのは企業としての強みにつながります」(渡邊さん)
■「救世主」の呼び声
ただ代替卵の国内市場は未知数。「ほぼたま」も当面は業務用に限定する。だが、卵アレルギーの当事者や子をもつ親たちの期待は高い。SNSには「救世主」「お弁当に入れてあげたい」といったコメントが並ぶ。
食物アレルギー研究会の世話人代表の海老澤元宏・相模原病院臨床研究センター長は「私たちの調査ではゼロ歳児の10人に1人ぐらいの割合で食物アレルギーを発症し、最も多い原因食物は卵です。小学校に入るまでに約8割の子は自然に耐性を獲得しますが、約2割はその後も症状が続きます」と話す。
キユーピーは「ほぼたま」の販路に給食も想定している。
「代替卵が普及すれば、卵アレルギーのお子さんも普段から卵に近い食感や風味に親しむ機会が増え、将来、卵好きになってもらえる可能性が高くなると期待しています」(広報担当者)
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2021年7月12日号