■メディアに消費されてきた 海外にルーツ持つ日本人
下地はミックスルーツを研究する社会学者だ。立命館大学衣笠総合研究機構の研究員の肩書を持ちながら、日本学術振興会の特別研究員の資格を得て、筆者が取材した時は、沖縄に住むミックスルーツの人たちの聞き取り調査のために、読谷村で妻子と暮らしていた。先行研究はほとんどなく、下地らが開拓した研究分野で、いま注目を集めつつある。これまでに100人以上にインタビューしてきた。
同じくミックスルーツをテーマに研究し、『ふれる社会学』(上原健太郎との共著)を出版した、大阪市立大学都市文化研究センター研究員のケイン樹里安(32)はこう説明する。
「“ハーフ”や、外国にルーツを持つ人びとが直面する諸問題は、多くの当事者にとっては毎日の生活に直結する問題なのですが、なかなか世に知られていません。また、当事者や家族・友人・パートナーであったとしても、個々人の状況や経験が異なる部分も多くあるんです」
厚生労働省のデータをもとにした論文によると、2015年の時点で日本にいるミックスは84万7千人以上、以降は毎年2万人ずつ増えているという。ただ、このデータには87年以前に生まれた人は含まれておらず、下地の母親も含まれていない。当時の調査では、日本国籍と外国籍という組み合わせのパターンしかカウントしておらず、たとえば日本国籍以外の両親を持つ子どもは数に入っていないため、「現実に“ハーフ”と名乗ったり、自認したり、あるいは名指しされる人ははるかに多いはず」と下地は言う。
かつて新聞や雑誌では「混血児」という呼称を用いて、偏見と蔑視を含蓄した文脈で取り上げた。あるいは“容姿端麗なハーフ”の芸能人が羨望(せんぼう)のまなざしを向けられ、テレビやメディアなどは彼らを「消費」してきたし、今もしている。海外にルーツを持つ日本人は、常に「日本人」と「外国人」のはざまに置かれ、ときに好奇や偏見の目にさらされ、ときにあからさまな差別を受けてきた。
「最近になってこの問題が可視化され出したのは、2010年代に入ってから入管法(出入国管理及び難民認定法)が改正され外国人の人口が増えたことがあるでしょう。そして何よりも、プロテニスプレーヤーの大坂なおみ選手や、アメリカのプロバスケットボールの八村塁選手、プロ野球選手のオコエ瑠偉選手などの日本人選手たちの存在や、彼ら自身が受けた差別をカミングアウトしていることが影響していると思います」
(文・藤井誠二)
※記事の続きはAERA 2021年7月19日号でご覧いただけます。