綿田医師はこう話す。

「この薬は腸管の運動を抑制するため、代表的な副作用に吐き気、便秘などがあります。また糖尿病治療薬としては安全な薬ですが、まれに膵炎などを起こすという報告もあり、専門医が処方する際には必ずこうした疾患を発症していないかを確認します。警告を無視して処方している医師が、きちんとした処方をしているのかという点が疑問です」

 一方、ダイエット目的で処方しているクリニックなどは、ホームページなどで「海外では肥満の治療薬として承認されているので安全」「日本でも将来的には認められる可能性がある」と広告している。

「確かに日本でも肥満症に対する臨床試験は行われていて、将来的に承認が下りる可能性がないわけではありません。ただ、海外で承認されているケースも含め、厳密には“肥満”に対してではなく、“肥満症”に対してです」

 肥満症とは、日本の診療基準ではBMIが25以上であることに加え、高血圧、中性脂肪の異常など実際に肥満に起因する健康被害が出ている、もしくは将来的に健康障害になる可能性が高い状態のことをいう。つまり「病的な肥満」のことだ。

「すべての医薬品にはリスクが伴うことを考えると、ただ『見た目が悪いから痩せたい』といった人への処方が承認されることは考えにくい」

 GLP-1ダイエットをしている人のSNSアカウントをみてみると、「見た目のために痩せたい」という動機で始めている例が多くみられ、BMIが「18台」という人も確認できた。

「食事療法も運動療法もダメで、病気をなんとかしたい、という人が使うならまだ理解できますが、『ちょっと太めだから』『産後太りがなおらない』という人が使っていることが問題です。たしかに糖尿病患者にとってこの薬は、血糖値を下げ、食欲を抑えて体重を落とすこともできる画期的な薬です。吐き気などの短期的な副作用や長期的に起こりうるリスクを考えても、使うメリットの方が圧倒的に大きいでしょう。しかし、健康な人がそのリスクを負うことが正しいのか、疑問が残ります」

「自然に食欲を抑えてラクに痩せられる」というのは確かに魅力的な謳い文句だが、将来の健康リスクまで考慮に入れ、一度立ち止まって考えてみてほしい。

(文/AERA dot.編集部・大谷奈央)

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