17年、将棋や囲碁界でプロ棋士がAIに相次いで敗れた頃、JISSの研究員でリオ五輪前から卓球日本代表をサポートしていた尾崎宏樹さん(43)が、倉嶋洋介監督(45)から「AIを使って卓球を強化できないか」と相談を受けた。

■分析をAIがサポート

 当時のスポーツ界ではAIを活用する事例が少なかった。尾崎さんらは、手作業でしていた試合映像の分析をAIでサポートするのはどうかと提案した。

 相手が打った球を打ち返すまでわずか0.3秒ほど。相手が打ってから対応するのでは間に合わない。相手の動きや表情を見て展開を予測し、駆け引きすることが重要だ。試合前にライバルの映像を見て相手の戦術の傾向や癖などを把握する。

 ただ、生の映像はタイムアウトなどプレー以外の時間も多い。日本卓球協会が保管する映像は約4万試合と膨大。選手が未編集の映像を時間をかけて見たり、時間が足りずに見るのを諦めたりすることもあったという。

 尾崎さんはJISSやIBMのエンジニアらに協力を依頼した。だが、映像が鮮明でないものもあり、撮影アングルもバラバラ。プレーシーンを切り出すのは容易ではなかった。半年ほどかけてプレーシーンや得点を検出するアルゴリズムを開発し、19年から現場で活用が始まった。映像に得点推移グラフを重ね、どこで得点の差がついたのかを見つけやすくした。

 同協会アナリストのリーダー、山田耕司さん(46)は言う。

「国際大会では夜の10時、11時まで試合がある。その後に食事や睡眠、体のケアなどもしなければならない選手にとって、45分の試合映像が15分で見られるというのはとても大きい。アナリストにとっても基本的な分析が済んでいる段階から作業を始められるので、より高度な分析ができるようになりました」

 コロナ禍で実戦が減った分、映像を見るのはより重要になる。尾崎さんは言う。

「AIを活用することで人間にしかできないことに時間を割いてもらいたいと思った。先進的にAIとの共存を模索している将棋界のように、スポーツでも選手の役に立つAIの活用が進むといい」

 最初の決勝種目は26日の混合ダブルス。伊藤美誠(=みま、20)・水谷隼(=じゅん、32)組に期待がかかる。(編集部・深澤友紀)

AERA 2021年7月26日号より抜粋