東京五輪では、アスリートたちを支える最新技術にも注目したい。桐生祥秀選手はピンなしのスパイクで臨む。悲願の金メダルを目指す卓球ニッポンは、試合映像の分析でAIを活用する。AERA 2021年7月26日号から。
【写真】陸上スパイクの概念を一新するピンのないアシックスの「メタスプリント」
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陸上では、従来の概念を覆すスパイクシューズが登場する。スポーツ用品メーカーのアシックスが5年がかりで開発したピンなしの「メタスプリント」だ。
陸上のスパイクといえば、靴底に金属性の突起がついたものが常識とされた。地面を捉え、推進力を生みだすために必要とされてきたからだ。革新的なスパイク開発のきっかけは選手の声だった。開発チームの小塚祐也さん(33)は明かす。
「ピンがトラックに刺さり、抜ける感覚があると聞き、そのわずかな時間のロスをなくせば速く走れるのではないかと考えました」
工学部出身の小塚さんは、大学で理学療法を学び運動分析ができる高島慎吾さん(35)とともに設計に着手した。ピンの代替となるのは六角形が集まった「ハニカム構造」。走行中に必要な箇所へ突起を設け、裏全体で地面を捉えて推進力につなげる。
通常、靴底には合成樹脂を使う。だが、ピンの代わりとするには強度が足りない。そこで炭素繊維強化プラスチックに目をつけた。ただ、加工が難しい。
行き詰まっていたときに出合ったのが石川県小松市に本店がある繊維メーカー、サンコロナ小田だった。同社は独自の糸加工技術を持ち、レースカーテンやウェディングドレスなども製造。その技術を炭素繊維に応用し、複雑な形状を簡単に量産できる「フレックスカーボン」の開発に成功した。求めていたスパイクがようやく形になった。
18年末には、日本人で初めて100メートルを9秒台で走った桐生祥秀(25)に試走してもらった。足裏の感覚が繊細だというリオ五輪男子400メートルリレーの銀メダリストの意見を聞きながら、約40足改良を重ねて19年にレースで履けるまでになった。