「確かに感染者は増えていますが、重症化しやすい高齢者の割合はかなり下がっています。重症例・死亡例は減るはずで、同じ感染者1千人でもこれまでのようなインパクトはありません」
■もうひと夏我慢して
7月14日の東京都の感染者は20代・30代が全体の47%を占め、70代以上はわずか2.9%だった。さらに都では、既に65歳以上の8割弱が1回目のワクチン接種を終え、半数以上が2回目も接種している。久住医師によると、8月中には「ほぼ打ち終わる」という。
「イギリスの報告によると、ファイザー製のワクチンはデルタ株に対しても96%という高い入院予防効果が確認されています。ワクチンさえ打てば、仮に発症しても高度な治療が必要な状態にはほぼならない。科学的見地に立てば、少なくとも現時点で慌てて宣言を出す必要はありませんでした」
宣言を出すタイミングになく、対策も的外れ。行動変容も望めない。宣言にまだ大きな効果があると政府が考えているなら、それこそ「緊急事態」だ。ただし、慶応義塾大学大学院の小幡績准教授(行動ファイナンス)は国民の責任も大きいと指摘する。
「政府が稚拙で政策に軸がないのも問題ですが、感染者が増えると何とかしろと大騒ぎし、厳しい制限をしようとすればやってられないと批判する国民にも混乱の責任はあります」
ではこの夏休み、旅行や帰省はどうするべきか。久住医師は、旅行や帰省はできる限り控えてほしいと話す。
「『緊急事態』に値しないとはいえ、まだまだ全国津々浦々にワクチンが広まってはいないし、免疫治療中の方や抗がん剤を使用している方などワクチンを打っても免疫が付かない人もいる。そういった方々が安心して過ごせる社会をつくるためにも、ウイルスが全国に拡散される旅行や帰省はもうひと夏我慢してほしい。それは宣言の有無とは関係ありません」(久住医師)
小池百合子東京都知事が「この夏は『特別な夏』」と自粛を求めてから丸一年。「特別な夏」は再び巡ってきた。行動を決めるのは政府が出す宣言ではなく、私たち一人ひとりの判断だ。(編集部・川口穣)
※AERA 2021年7月26日号より抜粋