「アンダー」の導入と時を合わせるように日本陸連の科学委員会がバトンパスに関するデータを、合宿や試合のたびに集めてきた。特に1走から2走、2走から3走、3走から4走と、3区間あるバトンを渡す40メートルの区間タイムを重視。37秒60で銀メダルを獲得したリオ五輪では3区間の平均が3秒76だったのに対し、37秒43の日本記録をマークした一昨年のドーハ世界選手権では平均3秒72まで縮まった。この大会では米国、英国に敗れて3位だったが、この区間タイムは他国と比較して最も速い記録だった。バトンパスのスムーズさは世界一というわけだ。

 バトンパスでのタイムの短縮は限界がきているという見方がある。一方で、今季のように調子の上がらない選手がいる状況では、やはりその精度が浮上のカギになるだろう。ドーハ世界選手権以来この2年間、コロナの影響もあり、トップ選手でリレーの実戦がないのも不安材料だが、デーデー・ブルーノ(東海大)をのぞけば世界大会でのリレー出場経験がある。

「リレーは信頼関係」。土江・五輪強化コーチは言い切る。そういう意味では経験者の多い、今回のメンバーは心配無用だろう。

 桐生祥秀(日本生命)は100メートルの代表になれなかったが「完全に吹っ切れている」と言う。「ここで(敗戦を)引きずっていたらチームの雰囲気が悪くなる。リレーは雰囲気が大事。今回はリレーで最高のパフォーマンスをするために呼ばれているので、しっかりリレーに集中したい」。一番輝くメダルを目指し、チームの牽引役を担う。(朝日新聞スポーツ部・堀川貴弘)

AERA 2021年7月26日号より抜粋