ひとは寝ただけで血圧が60もさがるのか。不思議だが、ほんとうだった。
口にシュノーケルのような管をくわえさせられ、検査の準備が整った。看護師が腕に注射針を刺して「眠くなる薬を入れますからね」という。
わたしは毎年の人間ドックで、この睡眠薬が体内に入っていく瞬間が楽しみでしかたない。十秒ほどでふっと意識がなくなり、目覚めたときは検査が終わっている。よめはんと休憩室のベッドで二十分ほどお昼寝をし、きのうの晩からなにも食っていないので病院からすぐ家には帰らず、歩いて近くのうどん屋に行った。きつねうどんの美味かったこと。よめはんもてんぷらふたつとぶっかけを完食した。
翌朝。友だちがふたり来た。毎月恒例の麻雀の日だ。四人でサラダやサンドイッチを食い、コーヒーを飲んで十時からゲームスタート。よめはんがいきなり荘家(オヤ)の四暗刻(スーアンコー)をツモって、わたしが飛んだ。いつもそうだが、よめはんはヒキが強い。
麻雀は翌日の午前四時に終了した。わたしは負けて降圧剤を服み、へろへろになって寝た。
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する
※週刊朝日 2021年7月30日号