漂い始めた不穏な空気を、“日本の至宝”がひと振りで吹き払った。金メダルを狙う東京五輪日本代表のグループリーグ初戦の南アフリカ戦、0対0で迎えた71分、MF田中碧のサイドチェンジのパスを受けたMF久保建英が、右サイドから中央へカットインして左足を一閃。これまで何度も決めてきた得意の形でゴールネットを揺らし、チームを勝利に導く決勝点を奪って見せた。
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緊張感のある大会初戦で勝点3を獲得。ボール支配率52%の数値以上に中盤を支配し、シュート数は14対4。得点は久保が個の力で奪った1点のみだったが、複数人の選手が絡むパスワークで何度もチャンスを作り、無失点での勝利はポジティブな要素であり、日本は好発進を切ったと言えるだろう。だが、手放しでは喜べない内容と結果、そして今後であることも確かである。
そもそも対戦相手の南アフリカが万全ではなかった。来日後、選手2人とスタッフ1人が新型コロナウイルスの検査で陽性となり、試合3日前には選手ら18人が濃厚接触者に認定。結果的に試合6時間前に選手全員の陰性が証明されて無事にキックオフを迎えたが、もし、南アフリカが心身ともに万全の準備をできていたならばどうだったか。試合を通して粘り強いディフェンスを見せた南アフリカだが、もし、開始直後から5バックで完全に重心の下がった戦い方ではなく、前線から圧力をかけて真っ向勝負を挑んで来たならばどうだったか。
事実、日本が先制した後の残り15分間は、南アフリカが攻めに出て、77分に右サイドをワンツーで突破されて背番号10のルーサー・シンに中央からシュートを打たれたシーンを皮切りに、その後も2、3度、ヒヤリとする場面を作られた。「もちろんベストの状態で、フェアに戦えれば一番良かったですけど、今回の大会に関してはこれも一つのキーポイント」とは吉田麻也の試合後の言葉だが、もし南アフリカが“ベスト”だったなら、もっと苦しめられたはずだ。