柔道の阿部一二三選手(全日本柔道連盟提供)
柔道の阿部一二三選手(全日本柔道連盟提供)

 東京五輪で金メダルラッシュが期待されるのはお家芸の柔道だ。前回のリオ五輪で金メダルを獲得した男子73キロ級・大野将平、柔道史上初の「きょうだい同時金メダル」の期待がかかる男子66キロ級の兄・阿部一二三、女子52キロ級の妹・阿部詩ら実力者がそろう。

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 ただ、金メダルラッシュが実現したとしても、もろ手を挙げて喜べるかと言うと、事情は複雑だ。来日した他国の柔道関係者はこう漏らす。

「コロナの影響でロックダウン(都市封鎖)されたので、何カ月も満足に練習できていない。感染リスクの観点から練習で乱取りもできなかったんだ。コンディションは万全には程遠いよ。日本で五輪を開催できるのはありがたいけど、選手や指導者、スタッフの限られた人数しか来日できない。練習パートナーを連れてこられないから、同じ階級の選手と実戦を想定した練習ができない。負け惜しみに聞こえるかもしれないが、日本が有利なのは間違いないよ」

 コロナ禍で来日した海外の選手は様々な制限で満足な練習ができず、日本代表の選手たちとの間に「不平等」が生じているという――。88年ソウル五輪の柔道銅メダリストでJOC理事の山口香氏は、米ニューズウィーク日本版のインタビュー(6月8日WEB配信)で、この問題について言及している。

「柔道ではスイスチームが筑波大学で事前合宿をすることになっているが、市や大学側は『来てください。しかし、学生と接触させられません』としている。つまり来日しても練習相手がいない。しかも今回は、練習パートナーを日本に連れてくることができない。ものすごいハンデです。それは柔道だけでなく、いろんな種目で起きていること。でも日本人選手は通常の練習や準備をしてから本番を迎えられる。『ホスト国のアドバンテージ』となるかもしれないが、そういうアンフェアなことがあちこちに出てくる」

 このような問題を抱えた中で、起きたのがホテルでの「隔離問題」だった。ブラジルの柔道選手団が宿泊する浜松市内のホテルでスタッフから相次いでコロナの陽性反応が出たため、予防措置の観点から選手団がホテルで隔離を余儀なくされることに。ロイター通信によると、チームリーダーのネイ・ウィルソンが「今、われわれは自分たち以外に誰もいないホテルで生活をしている。エレベーターのボタンを押すことさえできず、それを代行する人がいる。忍耐のゲームだ」と不満を明かしたという。

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