鬼殺隊には、かつて継国縁壱という名の剣士がいた。縁壱は鬼の始祖ですら圧倒する実力者だったが、彼は運命に翻弄され、数奇な人生を歩まざるを得なかった。特に、最愛の「兄」との決別と再会は、作中でも重要な意味を持つ。縁壱の残した言葉から、彼の人生につきまとった、深い悲しみと孤独について考察する。【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。
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■始まりの呼吸=「日の呼吸」
「鬼殺隊」は「呼吸」という特殊な戦闘術を使うことによって、鬼と互角に戦うことができる。「呼吸」には岩・風・水・炎・蟲(むし)・音・霞・蛇・恋など種類が多数あるが、これらはすべて、あるひとつの「呼吸」の派生形だった。
―すべては「日の呼吸」から始まった―(※8巻・第86話「使い手」より)
「日の呼吸」は「始まりの呼吸」とも呼ばれ、戦国時代に継国縁壱(つぎくに・よりいち)という剣豪が作り上げた技だった。縁壱こそ、鬼の始祖・鬼舞辻無惨(きぶつじ・むざん)を葬り去ることができる、最強の剣士だった。
■「忌み子」として生まれた数奇な人生
縁壱は、武家である継国家に生まれ、巌勝(みちかつ)という名の双子の兄がいた。当時、双子は不吉と考えられていたため、縁壱は父に疎まれながら成長していく。
縁壱は不思議な少年だった。言葉を話そうとせず、耳が聞こえないと誤解されたこともあった。ふつうの子どもとはどこかちがう。しかし、それでも母は縁壱を守り育てた。
<私の母は信心深い人だった><太陽の神様に 私の聞こえない耳を 温かく照らして下さいと祈り 耳飾りのお守りまで作ってくれた>(継国縁壱/21巻・第186話「古の記憶」)
■父母と兄・巌勝との別れ
愛情深い兄は、父から追いやられる、かわいそうな弟を守りたかった。
<私の兄は優しい人だった いつも私を気にかけてくれた 父から私に構うなと殴られた翌日も笛を作って持って来てくれた 助けて欲しいと思ったら吹け すぐに兄さんが助けにくる だから何も心配いらないと 赤紫に腫れた顔で笑った>(継国縁壱/21巻・第186話「古の記憶」)