自らのシベリア抑留体験と広島の原爆を生涯描き続けた広島の画家、四國五郎は一時、被服支廠で働いていた。長男の光は、建物が広島の二つの側面を持っていると指摘する。
「平和都市であること、明治以降の日本の侵略戦争を支えてきた軍都だったこと。この両面を体現している遺構は世界であそこだけ。多くの人が亡くなった所ですから、利活用は、戦争の記憶を継承するものでなければいけない」
被爆から76年を迎える広島。被害だけでなく、原爆投下につながった戦争と「軍都」の関係を見つめ直す機運が生まれ始めていることは確かだ。
四國光は言う。
「いま、原爆ドームを壊すことは考えられませんよね。あれも戦後の一時期、なくしてしまえという話がありました。でも、時間が経たないとわからないことがあるんです。被服支廠も、残すことで生まれる価値があるはずです」
(敬称略)(ノンフィクション作家・高瀬毅)
※AERA 2021年8月9日号より抜粋