政府関係者によると、今回の方針を決めたのは内閣官房と厚労省だという。自宅療養への方針転換はなぜ、行われたのか。

「国民の切り捨てではありません。ウイルスが発見された当初は完全隔離でも、治療法が確立して死亡リスクが低い病になってきたら入院せずとも治癒可能になる。今回の対応も諸外国でも既に通った道であり、菅首相はその真似をしたに過ぎません。治療法が確立しつつあることにより、当初に比べて死亡率が著しく下がってきましたから、病床使用を見直した、ということです」(政府関係者)

 4日夜、菅義偉首相は「必要な医療を受けられるようにするための対策である」と述べ、撤回しない考えを示した。

 政府の新しい方針には医療現場から強い疑問の声があがる。感染症専門医で埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科の岡秀昭医師は「今回の政策は感染者を増やすことにつながるのでは」と危惧する。

 重症化した患者や重症化リスクの高い患者を入院させるということは、他方で、中等症や軽症の患者が自宅療養することで、家庭内での感染や、街中での感染が増えるとみられる。その結果として、重症化する患者やリスクの高い患者が増えることが考えられる、ということだ。しかし、その患者を診るための病床を増やすことは簡単ではない。

「この政策を進めるためには、40、50代のワクチン接種を進め、重症化する率をもっと下げる必要がある。ですが、この年齢のワクチン接種はまだ進んでいません。他方で、機能する重症病床をもっと増やす必要がありますが、スタッフも設備も揃える必要があり、すぐには対応できるものではない。非常に危険な勇み足だと思います」(岡医師)

「確立しつつある」という治療法も、現在のところ、どの程度適用できるかまだ不透明だという。

「確かに発症して早めに、症状が軽い段階で抗体カクテル療法をすることで重症化を減らすことができるようになっています。海外では入院する前の人に投与することで効果が認められているが、日本では入院中の患者でしか使えません。自宅療養にすることで症状が軽い段階で投与することができなくなるケースが増えるでしょう。また、この薬は軽症者でも全員に投与できる薬ではない。日本では薬価はついていないが、アメリカでは1本25万円くらいする。そのためか、厚労省も使用に規制をつけている。政府は薬は確保しているといいますが、その量は明らかになっていません」(同前)

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「助けられる命も助けられなくなる」