7月21、22日の王位戦第3局。まず目を引いたのは先手・藤井の角換わり採用だった。
「なんなんだろう? 相掛かり(互いに相手陣に向かってまず飛車先から攻めかかる戦法)はもう終わったのかな?(笑)」(渡辺)
現代将棋界では相掛かり、矢倉、角換わりが「三大戦法」とされている。藤井は昨年7月、棋聖戦で渡辺に敗れて以来、ずっと先手で角換わりを指さなかった。長い封印を解いた意図はなんだったのか。
「具体的な手順はわかんないけど、角換わりは突き詰めると後手よしっていう見解が藤井君にはあったはず。それが最近変わって、先手もやれるって思い直したんじゃないですか。あと豊島-藤井戦って、番勝負二つ並行でずっと続くじゃないですか。だったら角換わりもまぜていかないと、やる戦法がなくなるのかもしれない」(渡辺)
■新AIの影響の可能性
コンピューター将棋ソフト(AI)「水匠」開発者の杉村達也氏は、最近の藤井の序盤戦術を解析。従来の型ではなく、最近台頭しているディープラーニング(DL)系のソフトの影響があると推測している。渡辺の見解は、その推測と一致する。
「第3局はわりとよくある定跡なんですけど、それをやるっていうのはお互いの見解が一致してないってことなんですよね。豊島さんは後手が十分、藤井君は先手の利があると思ってやってる。見解にズレがあるんです。最近は藤井君の序盤研究と、みんなの研究が合わないことが多い。だから藤井君だけ使っているソフトが違うのかもしれない」
■長丁場の戦いに勝利
王位戦は持ち時間8時間で2日制の長丁場。1日目の終わりには次の一手を「封じ手」とする。昨年の王位戦で、挑戦者の立場だった藤井は初めて封じ手をした。その用紙と封筒はチャリティーオークションに出され、藤井が王位を獲得した第4局の封じ手には、なんと1500万円ほどの値がつけられた。藤井は現在、2日制の対局にもすっかりなじんだように見える。今期第3局、藤井はうまいタイミングで豊島に封じ手をさせた。
「藤井君が1日目夕方、相手に決断を迫ったのがうまかった。封じ手では、豊島さんは銀を出る手が最善だったんですけど、それを封じ手前の読みで決断できるかっていったら大変なんです。銀を出る手は怖い。勝ちかもしれないですけど、逆に負けかもしれないから。豊島さんの封じ手は銀を出るのではなく、重ねて打つ手でした。それだと少なくとも不利にはならない。だけど実際には緩手なんです。私の場合ですけど、後手だからちょっと謙虚に考えて、1日目は互角で終えれば十分という手を選ぶことはあります」(渡辺)