美少女の麗美奈は一躍注目されアイドルとして祭り上げられるが、やがて星が地球に厄災をもたらし始めると、人々はパニックに陥り、一転して麗美奈を攻撃し始める。作品が描かれたのは04年。中世の魔女狩りさながらに十字架にはりつけられる麗美奈と暴徒と化す人々の様子は、どこかいまの世を暗示している感もある。

「昔からある“パニックもの”を踏襲した話でもあるので、特に未来を予見したとは感じていません。ただ、いまの世の中、ネットで一人の人間を大勢で叩く“炎上”を見ていると、奇妙な符合も感じます」(伊藤さん)

■20を超える国で翻訳

 もうひとつの受賞作『伊藤潤二短編集 BEST OF BEST』は主に2000年代に発表された読み切りを網羅した短編集だ。こちらにもいまの世との奇妙な符合が感じられる作品がある。

 例えば『億万ぼっち』。合コンや同窓会に集まった若者たちが、互いを糸で縫い合わされた異常な集団死体となって発見される。やがて「人の集まる場所が危険だ」となり、人々が個室に引きこもるようになる──まさにコロナ禍のようではないか。

「起こってほしくない状況で恐怖を描くSFやホラー漫画には、ときにそういう側面があるかもしれません。楳図かずお先生の『漂流教室』や『14歳』も未来を予見した名作ですし、大友克洋先生の『AKIRA』もまさに東京2020オリンピックについての描写が現代にリンクしていると話題になりましたよね」

(フリーランス記者 中村千晶)

AERA 2021年8月9日号より抜粋

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