■「生前贈与」に大活用

 相続が先の話になるほど、税制改正リスクを念頭においたほうがいいということだろう。それならば、不動産小口化商品を「生前贈与」に活用するほうが効果的だと深野氏は考察する。

「存命中に資産を少しずつ将来の相続人に分け与え、相続税の課税対象となる資産を減らしておくのが『生前贈与』です。その際、現金ではなく任意組合型の不動産小口化商品を贈与するというアプローチは確かに有効だと言えるでしょう」

 無条件に認めると課税逃れが横行するため、「生前贈与」には上限が設けられている。1人当たり年110万円の「基礎控除」枠を超えると、最高55%の贈与税が課される。

 しかし、不動産に課す贈与税を計算する際は、先述した相続税と同じ税制が適用されるため、実勢価格よりも低い評価となる。やはり、任意組合型の不動産小口化商品でも同様だ。仮に実勢価格の5割程度の評価額となったとしたら、実質的な資産価値が220万円の贈与を行っても非課税となるわけだ。

■都心の優良物件に照準

 もちろん、こうしたメリットがある一方で、いくつかの注意点も存在している。

 まず、元本や分配金の支払いが保証されているわけではないし、自分自身で同じような条件の賃貸物件に直接投資するケースと比べて利回り(分配金の収益性)は低めだ。また、常に募集が行われているわけではなく、ちまたに出回る数もまだ限られているのが現実だ。

「一口に不動産小口化商品(任意組合型)と言っても、実際に投資している物件の収益力は個別に違っています。物件のよしあしを見定めることが肝心となってくるでしょう」(深野氏)

 例えば賃貸マンションのような居住用の物件だけでなく、オフィスビルに投資している商品もある。コロナ禍でも賃貸住宅の需要は堅調だが、テレワークへのシフトが逆風となっているように、オフィスビルは社会情勢や景気の影響を受けやすい。

 居住用にしても、エリアや交通の便などの条件が異なれば、事情は大きく変わる。地方都市の物件は相対的に利回りが高めだが、新入学・転勤シーズンに需要が偏り、空室が発生すると長期化しがちだ。

 そもそも日本では今後も少子高齢化が進む見通しで、おのずと地方都市の賃貸需要も弱含むことになろう。

 その点、東京都の推計によると、23区の人口は2030年まで増加が続き、以降も微減にとどまる。都心へのアクセスが容易なエリアに立つ物件なら、比較的安定した賃貸需要が見込まれそうだ。

「生前贈与」の手段として不動産小口化商品(任意組合型)に注目する際にも、そういった優良物件が投資対象となっているものをよりすぐることが不可欠となる。(金融ジャーナリスト・大西洋平)

AERA 2021年8月9日号

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大西洋平

大西洋平

出版社勤務などを経て1995年に独立し、フリーのジャーナリストとして「AERA」「週刊ダイヤモンド」、「プレジデント」、などの一般雑誌で執筆中。識者・著名人や上場企業トップのインタビューも多数手掛け、金融・経済からエレクトロニクス、メカトロニクス、IT、エンタメ、再生可能エネルギー、さらには介護まで、幅広い領域で取材活動を行っている。

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