
■ドイツ戦勝利は奇跡ではない
14年のブラジル大会ではアルベルト・ザッケローニ監督は本田、香川真司、長友佑都など欧州強豪クラブに所属する選手を擁した。だが、グループリーグで敗退する。
「ザッケローニ体制でポゼッションを中心にした攻撃的なサッカーを掲げ、前評判は高かった。しかし、メンバーの固定化、守備的な戦術のほうがいいのではないかとチーム内から声が出るなど、一体感に欠けた面はありました」(同)
18年ロシア大会は落ち着かないことが重なった。ハビエル・アギーレが就任半年で解任。後を継いだバヒド・ハリルホジッチで予選を勝ち抜いたが、開幕の2カ月前に選手とのコミュニケーションの問題が湧き上がり解任。急遽(きゅうきょ)指揮を執ることになったのが西野朗であった。本戦ではコロンビア、セネガル、ポーランドに1勝1敗1分けでグループリーグを突破。決勝トーナメント1回戦ベルギー戦。2-0とリードするものの、同点に追いつかれ、アディショナルタイムに逆転され惜敗。
「終了間際での弱さを見せてしまった。ドーハの悲劇を思い出してしまいました」(Jリーグ関係者)
そして22年カタール大会。初戦のドイツ戦。前半は精彩を欠いたが後半は森保一監督の大胆な采配が功を奏す。見違えるくらいにチームは活気づき、2-1の逆転で歴史的勝利を収めた。
「途中出場の選手がことごとく活躍し、本来なら個人の出来に不満を持ちそうな久保建英が『そんなことどうでもいい。勝ったのがうれしい』と試合後に話し、勝利によってチームの一体感がより増したように感じました。ベテランの招集、初戦で勝ち点をつかみ取ることの重要性。これらは98年大会からの経験が線となってつながって、この大会に生きています。ドイツ戦はまさに理想的な勝利でした」(六川さん)

「日本サッカーの父」とされるドイツ人のデットマール・クラマーは「タイムアップの笛は次の試合へのキックオフの笛である」という言葉を残した。
日本サッカー界の“師”とも言えるドイツに勝った意味は大きい。「ドーハの悲劇」で終わったタイムアップの笛は、「ドーハの歓喜」を告げる笛となった。(本誌・鮎川哲也、秦正理)
※週刊朝日 2022年12月9日号