原文とそれを訳したJOCの日本語版を詳しく比較してみよう。
「『祝う』という動詞に注目しましょう。ここでは何が何を祝っているのでしょうか。JOCの日本語版では、天皇陛下である『私』が『第32回オリンピアード』を祝っていることになります」(多賀教授)
多賀教授が注目するのは、英文のこの部分だ。
<……..the games of Tokyo celebrating the 32nd Olympiad…………>
つまり、「東京大会」が「第32回オリンピアード」を祝っているのは一目瞭然だ。
JOCの和訳のように、天皇陛下である「私」が「オリンピアードを祝っている」わけではないのだ。
多賀教授は、このことは五輪憲章の仏語版を見れば疑問の余地はない、と話す。というのも、五輪憲章の規則22付属細則3は、仏語版が優先される旨を記しているからだ。
《オリンピック憲章およびその他の IOC 文書で、フランス語版と英語版のテキスト内容に相違がある場合は、フランス語版が優先する。ただし、書面による異なる定めがある場合はその限りではない》
仏語版の宣言文を見てみよう。
《Je proclame ouverts les Jeux de… (nom de l’hôte) célébrant la… (numéro de
l’Olympiade) Olympiade des temps modernes.》
多賀教授は、「私」が主語で、「オリンピアードを祝っている」のならば、「gérondif」を使って「en célébrant」としなければならない、と分析する。しかし、上記のように仏語版では前置詞の「en」 が無く、ただの「célébrant」になっている。
このcelebrant が、直前の東京大会(les Jeux deTokyo)を修飾していることは明らかである、と指摘する。