東京五輪の陸上短距離競技でフライングで失格した選手に同情の声が上がっている。1日の陸上男子100メートル決勝で、イギリスのザーネル・ヒューズ(26)がフライングで一発退場に。前日の予備予選では、アンゴラのアベニ・ミゲル(18)が一発退場をくらい、はるばるアフリカから来たのに走ることなくトラックを去った。ネットでは、「フライング1回で失格は悲しい」「可哀想に、失格は2回じゃないの?」と嘆かれた。
フライングしても1回目はセーフだったのは、2009年まで。日本陸連によると、国際陸上競技連盟(IAAF)の罰則規定の改正で、混成競技以外のトラック種目では、フライング1回目で即失格とする新ルールが2010年から適用された。男子10種や女子7種などの混成競技は2回。非情なルールに思えるが、世界記録保持者のウサイン・ボルトですら、改定後の翌年2011年に開催された世界選手権大邱大会でフライングにより失格になったことがあった。
フライングの判定には、不正スタート発見装置が使われている。スターティングブロックにかかる力を電気的に計測し、スターターの信号器発射から選手が0.1秒未満のスタート動作をしたと判定されたときにブザーが鳴る。
つまり、音を聞いてから身体を動かすまでは0.1秒以上はかかるという前提に立ったルールだ。アスリートの脳科学について研究するNTT コミュニケーション科学基礎研究所の柏野牧夫さんは、「普通の人の単純反応時間は約0.2秒」という。
「何か刺激があってから反応するまでを単純反応時間と呼びます。例えば、ライトがぴかっと光ったらボタンを手で押す視覚の単純反応時間では約0.2秒かかります」(柏野さん)
0.2秒は、手の指でボタンを押す腕の動作。一方、短距離走の場合は、ピストルの音を聴覚で認識して脚を動かす。全身運動のほうが当然、反応時間は長くなる。
「普通の人を対象に、『音が鳴ったらなるべく早く飛び上がってください』という課題を出すと、その動作に約0.4秒かかります。音が耳から入り、脳で情報処理して、身体の筋肉を動かす指令を出すまでには時間がかかります」(同)