別れを決意した湊斗が、電話で紬と話す(5話から)。実際に通話しながら2カ所で同時に撮影が行われた (c)フジテレビ
別れを決意した湊斗が、電話で紬と話す(5話から)。実際に通話しながら2カ所で同時に撮影が行われた (c)フジテレビ

 もう一つ、“silent沼”にハマったファンたちがあげたこのドラマの特徴がある。それは「ながら見」ができない点。

 ある30代女性は、いつもはパソコンで作業しながら隣にiPadを置いてNetflixなどを流し見しているが、「silent」だけは手を止めてじっくり観るという。

 前出の藤田さんが解説する。

「『silent』というタイトルどおり、このドラマでは、手話で話している間など無音のシーンが必ずあります。無音のシーンでは、登場人物の仕草や表情に視聴者の視点が向けられます。そういった時間にも、視聴者は離れることなく付き合っています」

“タイパ(タイムパフォーマンス)が悪いから”という理由でドラマや映画を早送りで観ている若い世代の視聴者が、登場人物の微妙な心の動きに付き合ってこのドラマを楽しんでいるのは、ドラマ好きとしてうれしく思う、と藤田さんは続けた。

桃野奈々(夏帆)。想にとって聴力を失ってからの「唯一の友達」だが、奈々は想に恋心を寄せる(6話から) (c)フジテレビ
桃野奈々(夏帆)。想にとって聴力を失ってからの「唯一の友達」だが、奈々は想に恋心を寄せる(6話から) (c)フジテレビ

■もどかしさがリアル

 ドラマの影響は意外なところにも及んでいる。

 YouTubeチャンネル「showゆっくり手話ちゃんねる」では、ドラマの放送以降、チャンネルの再生回数が10倍ほどに伸びた。同チャンネルは、生まれつきろう者であるshowさんと幼なじみで聴者のtakuさんが二人で運営している。

「ドラマがきっかけで手話に興味を持ち始める人が増えているのはすごくうれしい」

 とshowさん。

「人工内耳が広がったこともあり、僕の周りでも、昔より手話を使う機会が減ったという話をよく耳にします。手話は大事な言語の一つ。魅力的だし便利なこともある。それをみんなに知ってもらいたいし、楽しさを広めたいという思いがあります」

 takuさんはドラマの魅力についてこう語ってくれた。

「スマホで文字を打つシーンが何度も出てきますが、そのなんとも言えないもどかしい時間にリアリティーを感じました。実際showくんと意思の疎通をする際にスムーズにいかない、時間がかかることもあります。そういった細かいリアルの積み重ねが違和感のない雰囲気を作っているのだと感じます」

 次回第8話は12月1日に15分拡大で放送予定だ。(編集部・高橋有紀)

AERA 2022年12月5日号

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