紬と二人暮らしをしている弟の光(板垣李光人)。子どもの頃から知っている湊斗を慕っている(3話から) (c)フジテレビ
紬と二人暮らしをしている弟の光(板垣李光人)。子どもの頃から知っている湊斗を慕っている(3話から) (c)フジテレビ

「主人公の想は、聴覚を失い困難な人生を歩んでいきます。従来のドラマであれば、卑屈になって周囲を寄せつけない性格になったかもしれません。しかし『silent』の想の本質、人を思いやる温かさは、以前と大きく変わることはありません。紬についても、突然別れを告げられた恋人が実は聴覚を失っていたという悲劇のヒロインとして描くこともできるはず。でも、想の現状を知って、彼に何があったのか知るためにとにかく話がしたいと会いにいきます」

 ドラマの定番のストーリー展開とは違って、恋愛中の人の心の動きは、もっと微妙で多様なものだ。視聴者は、登場人物たちの微妙な心の動きや行動に「これでいいんだ」と共感ポイントを見いだしているのではないか、と藤田さんは指摘する。

 その典型が、戸川湊斗(みなと)(鈴鹿央士)だ。紬の現在の恋人で、想と紬とは高校の同級生。紬の様子から今でも想のことが好きなんだと感じた湊斗は、自分から別れを告げる。

「彼も、従来だったら、今流行(はや)りの言葉で言うところの『闇堕ち』して、陰険に二人の恋愛を邪魔するキャラクターとして描かれたかもしれません。でも、脚本の生方さんはそういう人物造形をしたくなかったのでしょう」(藤田さん)

想と二人きりで話した後の湊斗。「想、高校の時から全然変わってなかった、そのまんまだった」と報告(4話から) (c)フジテレビ
想と二人きりで話した後の湊斗。「想、高校の時から全然変わってなかった、そのまんまだった」と報告(4話から) (c)フジテレビ

■あの名ドラマと比較

 描かれるキャラクターのリアルな一挙一動に、ついつい視聴者は思いを重ねてしまう。

「湊斗も想もいいやつすぎる。特に湊斗の心情を思うと涙が出ます。泣くわけあるかと思っていても毎回泣きます」(40代男性)

 一方、想の優しい手話に涙を誘われ毎話号泣していると言うのはドラマ好きの40代女性。

「『silent』は登場人物に悪い人や嫌いになる人が誰もいないので、安心して見られます。その前に見ていた朝ドラでは、ヒロインにムカついたり突っ込んだりが多かった」

 この女性、「手話つながり」で平成初期の名ドラマを比較に出してこうも指摘する。

「『愛していると言ってくれ』の矢田亜希子ポジションが想の妹(桜田ひより演じる萌)だと思いますが、まったく悪い子じゃない。紬の弟・光(板垣李光人)も協力的で、兄・姉思いのいい子たちです」

「愛していると言ってくれ」は豊川悦司・常盤貴子主演で、聴覚を失った画家・榊晃次(さかきこうじ)を豊川が演じ、手話や筆談がドラマ内で多く用いられた。矢田が演じた晃次の義妹・栞(しおり)は、密かに晃次に思いを寄せていて、紘子(常盤)との恋を阻むという役どころだった。愛憎劇の典型としてある意味これまで慣れ親しんできた形だが、「silent」ではそういった展開はない。

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