私が恵まれているのは、心配してくれた医師の友人が夜中に家に来て点滴を打ってくれたことだった。たった1本の点滴で、ヒリヒリと痛がっていた全身が柔らかな水に満ちていくのを実感する。こんなにも医療は進んでいるのに、本来は高度で安全な医療体制に守られているはずなのに。誰もが平等に医療にアクセスできない状況に東京は陥ってしまった。
東京五輪はようやく終わったが、精神的に厳しい2週間だった。バブルなどなかったこと、陽性者の検体が特定できない不備があったこと、濃厚接触者が試合に出られたこと、PCR検査が毎日できていなかったこと、日本在住の五輪関係者のワクチン接種率が不明なことなど、新型コロナウイルスを甘く見た体制だったことが五輪最中に明らかになった。それでも「感動をありがとう!」「日本すごい!」一辺倒の報道に心が乱れ続けた。
五輪期間中、同居の家族全員が陽性確定した友人がいる。一人は全く無症状で、友人は奇跡的に陰性だった。陽性者も濃厚接触者も全員自宅待機を求められるが、パルスオキシメーターが届いたのは1週間後で、行政から無料で届くはずの食料はいまだに届いていない。しかも使い回しのパルスオキシメーターにはべっとりと他人の指紋がついていたという。
一人暮らしは悲惨、という声もあるが、家族がいても悲惨は変わらない。濃厚接触者の家族が外に出ることは認められておらず、超感染リスクが高い空間でともに過ごすしかない。コロナ禍で一人暮らしの女性よりも、家族と同居している女性の自死率の方が高いことが明らかになっているが、家族のケアを強いられる女性の負担がより厳しいものになっている。
友人宅は食材を買いに行くのもままならず、いつ届くかわからぬ食材を待ちながら、出前で過ごしているという。いつ陽性になるか分からない不安のなかで、ただ家にいて熱のある家族の世話をする日々だ。
SNSでは東京都から届いた段ボールに、大量のインスタント焼きそばが入っていたことが話題になっていた。高熱の病人にインスタントの焼きそば? どのような人が、どのような想像力で、こんな決定をしているのだろう。韓国や台湾で、自宅療養者に送られている食材が、野菜だったり、おかゆだったり、キムチだったりと体に良いものが選ばれているのをネットを通して見てきた。代わりにお買い物に行ってくれるサービスもある。韓国に出張で出かけた友人は2週間の隔離期間中の食事がとても充実していたと教えてくれた。いったい日本はどこまで貧しく、想像力のない、おかしな国になってしまったのだろう。