林:そのほうがやりやすいですか。

渡辺:うーん、自分でやるやらないにかかわらず、昔ながらの劇団というスタイルでやること自体が難しい時代になってきていますね。劇団を40年やってきましたが、時代に合わなくなってきたと感じています。昔はみんな演出家の言うことを聞くのがあたりまえで、演出方針に従ってやる一つのチームだったんですよ。でも、今は演出家が「ダメだ!」なんてちょっと強く言ったらパワハラになっちゃうし、人を長く拘束することも違法な感じになってきちゃって。

林:そうなんですね。

渡辺:劇団というのはお金がないので、劇団員にギャラを払うためにはみんなで仕事をしなくちゃいけないんですよ。劇団員以外のスタッフを雇うためのお金がないから、自ら小道具をつくったり衣装を縫ったり、終わったら洗濯してアイロンかけたりね。それをあたりまえのようにやることで、お金を節約して予算を回してきたんだけど、今は「なんでそこまでやらなくちゃいけないんですか」と言う人が多いんですよ。みんな芝居だけして帰りたいわけ。私たちにとってあたりまえだったことが、あたりまえじゃなくなっちゃってるんです。役者も、ひとつの劇団に縛られるんじゃなくて、いろんなところに出て活躍したいという感覚の人が増えてきたし。

林:なるほど。

(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)

渡辺えり(わたなべ・えり)/1955年、山形県出身。78年に劇団2○○(その後劇団3○○に改名)を結成、20年間主宰。83年「ゲゲゲのげ~逢魔が時に揺れるブランコ」で岸田國士戯曲賞、87年「瞼の女―まだ見ぬ海からの手紙」で紀伊國屋演劇賞個人賞。作、演出、出演すべてをこなし、多くの舞台にかかわる。テレビドラマや映画でも活躍。日本劇作家協会会長。舞台「喜劇 老後の資金がありません」(8月13~26日・新橋演舞場、9月1~15日・大阪松竹座)への出演を控える。

>>【芝居の「赤字1千万」も補填 渡辺えりの老後貯金より大事な豊かさ】へ続く

週刊朝日  2021年8月20‐27日号より抜粋

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