そして甲子園出場こそ逃したものの、大谷の高校の後輩にあたる佐々木麟太郎(1年)は入学直後からホームランを量産。夏の岩手大会でも2本のホームランを放ち、この時点で既に高校通算22本塁打と清宮幸太郎(早稲田実→日本ハム)の111本塁打を上回るペースで打ち続けている。彼らの全員が大谷の影響を受けたというのは考え過ぎかもしれないが、大谷がホームランを量産した年にこれだけ地方大会でホームランを放った選手が目立つというのも決して無関係ではないはずだ。

 一つ大きいのがやはりテクノロジーの進化によってホームランを打つために必要な打球速度や角度といったものが明確になってきたことが大きい。大谷がホームランを打てばその飛距離、打球速度が逐一報道されているが、これは数年前までにはなかったことである。日本でも一部プロ野球の試合で情報公開されるケースもあり、昨年12月に行われた社会人野球の都市対抗でも中継でデータが発表されていた。何か数値的な指標ができるとそれに向かってフィジカル強化や動作の改善は進むものであり、アマチュア球界全体にもその波が着実に押し寄せていると言えそうだ。

 大谷とともに大きな影響を与えているもう1人の存在が佐藤輝明(阪神)である。ルーキーながら前半戦だけで20本のホームランを放ち、その規格外のパワーはプロでもトップクラスであることは間違いない。また大谷も佐藤も三振を恐れずにフルスイングする姿勢を貫いており、そのスタイルに魅力を感じているアマチュアやジュニア世代の選手は増えているはずだ。

 日本では古くから三振よりもバットに当てること、フライアウトよりもゴロを打つことのプライオリティが高かったが、その信仰も徐々に薄れてきている。そしてその空気を作り出したのはやはり大谷の影響と言える。この流れが続いていけば、大谷の活躍に刺激を受けた複数の選手たちが近い将来メジャーの舞台でホームラン王のタイトルを争うことも決して夢物語ではないだろう。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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