
イチローが残したのは偉大な記録だけではない。プレーに移るまでの『ルーティーン』の重要性も教えてくれた。
オリックス時代にチームメートだった本西厚博(現・社会人野球ハナマウイ監督)が、スーパースターの『ルーティーン』の秘密を語ってくれた。
「打席だけでなく守備位置でもルーティーンをやっていた。(本西が守る)中堅から右翼を見たら同じ動作を欠かさずやっていた。屈伸、上半身のひねり、グラブを右手で持って投げる動作。誰もがルーティーンはやっているけど意識的に大事にしている感じがあった」
オリックス・ブルーウェーブ(現バファローズ)は、96年に日本一に登り詰めた強豪だった。チームを支えたのはイチローを中心とした打線と隙を見せない鉄壁の守備力。本西はイチロー、田口壮(現オリックス外野守備走塁コーチ)とともに球界最高と言われた外野陣を形成。同じグラウンド上でイチローの成長を見続けてきた。
「一軍に定着した頃は目立つようなルーティーンはやっていなかった。もちろんいくつかはやっていたけど、晩年のように決められたものはなかった。レギュラーとして試合に出るようになってルーティーンの数も多くなった。例えば、ネクストでやる屈伸のような動作、座ってヒザを内側に入れたりも最初はやっていなかった」
「当初は身体がチーム内で一番くらい硬かった。特に股関節が硬くて開脚もできなかった。開脚すると膝が曲がり、ひどい時は後ろに倒れる。プレーするのに柔軟性が必要だと感じたのではないかな。チーム練習とは別に柔軟性を高めるトレーニングをやっていた。プレーに最適な状態を保つためにルーティーンを取り入れたんだろうね」
走攻守すべてで超一流だったイチローの弱点は身体の硬さだった。しかし早くから弱点に気付き、受け入れることによって対応策を練ってきた。弱点克服、更なるパフォーマンス向上のためルーティーンも増えていったと考えられる。
「身体に柔軟性が生まれてからは動きも増え始めた。ゴルフスイングのような素振りも同じ。身体全体を柔らかく使えるようになってからの動き。軸を真っ直ぐ保ちながら回転して両腕は頭の上までしっかり伸ばす。下半身も軸足のカカトを上げるようにして伸ばしている。スイングしながらストレッチをする感じ」