気がつきづらいSOSの二つめは「動画を見ていたいと言って登校を拒む」というケース。現在16歳の男子高校生から聞いた話です。彼は小学校3年生で不登校に。その際、両親に「動画を見ていたいから学校へ行きたくない」などと話して学校を休もうとしました。YouTubeでゲーム実況などを見ているほうが「学校よりも楽しい」と。そんな発言に、父親は怒って無理やり学校へ引っ張っていったこともありました。母親は「気持ちはわかるけど学校へ行きなさい」と諭したそうです。ところが本人にとって学校は相当、苦痛な場所だったようです。その後も無理に学校へ通っていたら、持病のぜんそくが悪化して入院に至ったそうです。この段になって両親は彼の気持ちに気がつき、不登校を受け入れて学校以外の道を模索するようになったそうです。

 彼は学校のどこがそんなに苦しかったのか。高校生になった今、話を聞くと「動画を見ていたい」という理由よりも、もっと複層的でした。先生の怒鳴り声が苦痛だったこと、授業を受けているのが苦痛だったこと、いじめらしきものがあったことなどです。私が話を聞いているあいだに彼が思い出した事実もあり、まだまだ真の理由が眠っているかもしれません。小学校3年生の彼が、唯一、言語化できたのが「動画を見ていたい」であり、先生への思いやいじめなどは説明が難しかったのでしょう。本人の口から出てきた言葉だけで判断して「怠けだ」と決めつけず、体調や言動なども併せて背景を考えるようにしたいものです。

 このほかにも、わかりづらいケースは多々あります。駄々をこねるように「学校へ行きたくなーい」と言いつつ、勉強に対する深刻な悩みを抱えていた中学生。「給食がイヤだ」と言いつつ、いじめに苦しんでいた小学生。大人の知らないところで、子どもは複雑な思いを抱えていることがあるようです。

 しかも、今年は特に気をつけたいものです。昨年、小中高生の自殺が499人と過去最多を記録しました(厚生労働省/1980年以降)。 今年は昨年を上回るペースで小中高生の自殺が増えています。昨年から続く自殺者増について、も文科省の有識者会議では「新型コロナウイルス感染症の拡大による家庭や学校の環境変化などによる影響」を指摘しました。

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10代の死因のトップは自殺