■売れ残り多いと市場を押し下げ

 この男性ら、売り主側の対応に納得できない購入者は今年2月、補償を求める民事調停を申し立てた。調停への参加者は今では約30人に増え、売り主側とやり取りが続いている。買い手側の代理人を務める轟木(とどろき)博信弁護士によると、売り主側が引き渡し時期を単純に1年延期するのではなく、少しでも早める努力をしたかどうかが焦点の一つになっているという。

 話し合いは平行線が続き、結論は越年しそうだ。前出・三井不動産の広報担当者は調停について「個別の案件についての回答は差し控えますが、適切に対応していきたい」としている。

 今は人気でも、残り販売分が順調に売れるかどうかも確実とは言い切れない。住宅ジャーナリストの榊淳司さんは「五輪の効果は年内いっぱいでは」と心配する。

「最寄りの勝どき駅まで16~21分とされていますが、敷地が広く、もっと時間がかかる入居者も少なくないはず。BRTの輸送能力も十分とは言えず、利便性を考えると資産価値が高いとは思えない。販売戸数が多く、引き渡す予定の2年余りで3千戸前後も売らなければならない。確かに割安ですが、マンションとしての純粋な価値を冷静に判断する人が増えたらどうなるか。今後、市場が冷え込むことがあれば、手放す購入者が相次ぐ恐れもあります」

 売れ残りがたくさん生じれば、晴海フラッグがマンション市場の足を引っ張る事態すら招きかねないというのだ。

 選手村の開発を巡っては、売り主側と買い手側の調停とは別に、東京都が、三井不動産や住友不動産などに対して敷地となる都有地を不当に安く払い下げたとして、住民訴訟を起こされている。この裁判は8月末に結審し、年内にも判決が出る見通しだ。

 東京五輪は開催まですったもんだがあったが、宴の後も波乱含みだ。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2021年9月3日号

著者プロフィールを見る
池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

池田正史の記事一覧はこちら