分譲マンションは2019年に販売が始まり、これまでに約900戸が売れた。当初は23年春に購入者へ引き渡す予定だったが、五輪の延期で1年延びた。引き渡し時期の延期とともに、分譲予定の約4100戸のうち、残り約3200戸の販売も止まっていた。
注目度を高めるのに、五輪や出場選手のSNSは一役買ったようだ。分譲マンションの販売は11月中旬に再開されるが、前出・三井不動産の広報担当者は「販売停止で検討するのを1年待った人も多い。残りの販売も順次、進めていきたい」と期待を込める。
一方、手放しでは喜べずに大会を見つめていた人たちもいる。19年夏に購入契約を結んだ50代の男性はこう漏らす。
「五輪そのものはずっと楽しみにしていましたが、複雑な思いもあります」
男性が買ったのは海側に臨む一室。眺めがきれいで、1坪あたりの単価は300万円前後と都心のマンションに比べて安い。廊下やエレベーターは通常よりも広く設計され、バリアフリー対応がしっかりしていることも魅力に感じた。
住んでいた都心の分譲マンションを手放し、別の賃貸物件に住みながら腰を据えて検討してきた結果、ようやく条件に合ったのがこの晴海フラッグだっただけに、入居を心待ちにしていた。しかし、昨春に五輪の延期が決まった頃から、売り主側の対応に不信感が芽生えるようになった。
男性はこう振り返る。
「引き渡し時期を担当者に聞いても『お答えできない』の一点張り。入居の1年延期が決まった時もたった1枚、通知が来ただけです。異例の事態ですから、五輪が延びるのはやむを得ない。でも我々は購入契約を結んでいるのですから、五輪の運営側との交渉の経緯を説明するなど、ほかにやりようがあったのではないでしょうか」
引き渡し延期の決定後、購入者には入居時期を決定通りに遅らせるか、解約して手付金を返してもらうかの選択肢が示された。だが多くの人にとって、住宅の購入は人生の一大イベント。男性は望んだ条件に当てはまる物件がなかなか見つからなかったこともあり、1年待つことにした。ほかの購入者の中には、子どもの入学や親との同居のタイミングに合わせて住み始めようと考えていた人もいるという。転居の時期がずれれば、人生設計も変更を迫られる。