石澤さんが知る都内のバーで働くある20代の女性は、父親の影響でストリート・スライダーズの大ファンだという。当然、スライダーズファンの客はうれしくなって自分にとってのスライダーズ愛を語るが、
「『お客さんそれぞれのスライダーズ愛や出会いを毎回聞かなきゃいけないのが正直、ツラい』って(笑)。あ、そうか、君はわかってくれてると思ってた、ごめん!って(笑)」
石澤さんの実感では、若者世代は、過去のロックの名曲に興味がないわけではないという。
「ビートルズ、ストーンズ、クイーン、(レッド・)ツェッペリン、ディープ・パープル、日本だとRCサクセション、ブルーハーツ、BOOWY……曲は好きなんです。だけど、そこからそのアーティストやさらにルーツを掘り下げようという感覚ではないんですよね。動画サイトやサブスクでいくらでも学べますし。実際に出た年代も関係なく、ここ最近の、あいみょんやYOASOBIの曲なんかとある意味等価でフラットな受け止め方の印象があります。中高年の思い出ベースの愛や思い入れは重いし必要ないんですよね」
世代間ギャップやそれによって生じるハラスメントに詳しい社会保険労務士の井寄奈美さんは、この価値観のズレを、
「現在の40代ぐらいから上の人たちは、上の世代の言うことは絶対であり、それが実際にためになったり、うまくいった体験をもつ世代です。しかし、今は、必ずしも先人の言うことが正しいわけではない時代です」
と語る。
「たとえば前の時代では通用した、そろばんより電卓を使ったほうが計算は速い。それが今は表計算ソフトが発達して、電卓すら必要ないこともある。そこに気づけずに、自分たちがやってきたことが一番いいと、善意で言ってしまうんですね」
若者世代が親しみを感じる感覚も変わってきていると、井寄さんは言う。
「今は、人にたたかれないように、目立たないようにという意識が強い時代になりました。SNS上も含め、仲間内や心を許している人どうしでは盛り上がるいっぽうで、違う価値観に対しては壁を作ってしまう。そこに中高年が自分の価値観を持ち込もうとしても拒否反応が出るのは仕方ないことかもしれません」