この治療法を“再発見”したのはIgA腎症根治治療ネットワーク代表で腎臓内科医の堀田修氏(現・堀田修クリニック院長)で、『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』など多数の著書があるEATの第一人者だ。

 今ではIgA腎症の根治治療法として確立されている「扁摘パルス療法」について米医学誌に論文を発表した堀田医師は、研究の過程で上咽頭を塩化亜鉛溶液でこするEAT療法を知り、文献をあさり、臨床を重ねた。これまでに3千人を超える慢性上咽頭炎の治療をしたという。

 堀田医師のもとで慢性腎炎の治療をしている40代の会社員は当初、定期受診時に頭痛と首の痛みを訴えた。あまりに症状が重いため、整形外科でMRI検査を受けたが、異常なしと言われたという。そこでEATを行うと、回らなかった首がすぐに回るようになり、頭痛も改善したという。

 別の後鼻漏(鼻水がのどのほうに落ちる症状)の患者は「たんが、のどの奥にへばりついた感じ」と訴えたが、耳鼻咽喉科をたらい回しになったうえ、「精神的なもの」だと精神科の受診を勧められた。しかしEATで後鼻漏の症状が改善した。

 他にも、うつ、せきぜんそく、過敏性腸症候群、掌蹠膿疱(しょうせきのうほう)症などで治療に行き詰まった多くの患者が堀田医師のもとでこの治療を受けて、症状を改善させているという。

 冒頭の記者の治療では、綿棒に血がべっとりついたが、次第に効果が表れ、10回目の治療を終えたころには悩まされ続けた肩こりが消えていた。

 それにしても、なぜのどの奥を塩化亜鉛溶液でこするだけで、さまざまな症状が改善するのか。堀田医師は「EATには三つの効果があると考えられます」と言う。

 まず一つめは、「塩化亜鉛による炎症部分の直接的な消炎作用」だ。

「空気の入り口である上咽頭には、外敵と闘う準備状態の活性リンパ球があり、殺菌作用のある亜鉛を塗布することで殺菌効果や炎症の沈静化が起きます。また、上咽頭炎の影響を受ける筋肉の緊張がほぐれ、頭痛や肩こりなどの症状が緩和されます。さらに炎症が治まることで免疫細胞が慢性的に刺激される状態がなくなり、糸球体腎炎や皮膚炎などの活動の低下につながると考えられます」

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